羽田空港アクセス線が2024年1月現在どのようになっているのか見にいきました。
羽田空港アクセス線(仮称)とは、JR東日本が計画している羽田空港アクセスを担う路線で、東海道線の田町駅、りんかい線の大井町駅、そして東京テレポート駅と羽田空港を結ぶ路線です。2031年度の開業を予定しています。今年2024年は開業7年前となります。
https://www.jreast.co.jp/press/2023/20230404_ho03.pdf
羽田空港アクセス線は都心から羽田空港へ3つのルートが計画されており、それぞれ、東海道線の田町駅から羽田空港へ至る「東山手ルート」、りんかい線大井町駅からの「西山手ルート」、りんかい線東京テレポート駅からの「臨海部ルート」となります。3ルートが途中で接続し、羽田空港へ至ります。接続地点から羽田空港までのルートを「アクセス新線」と呼びます。
「東山手ルート」は新橋、東京を経て高崎線・宇都宮線方面に進む列車や、常磐線方面に進む列車が構想されています。「西山手ルート」は現在の埼京線・りんかい線直通列車と同様に、りんかい線を経由して渋谷、新宿、池袋方面と羽田空港を結ぶ計画です。「臨海部ルート」はりんかい線を新木場方面に進み、京葉線を経由して千葉へと至る計画です。
そのうち、「東山手ルート」と「アクセス新線」に関して、2023年1月に国土交通省より認可され、工事が着工されました。「東山手ルート」と「アクセス新線」が開業して東海道線と羽田空港が繋がれば、東京駅から羽田空港まで現在約30分かかるところを約18分で乗り換えなしで行けるようになります。
以下、ここでは「東山手ルート」と「アクセス新線」を便宜的に「アクセス線」と称します。アクセス線を詳しく見ていくと、東海道線の田町駅付近から、現在は休止状態である貨物線の「大汐線(東海道貨物線)」を活用して東京貨物ターミナル駅までを結びます。「大汐線」は1998年までは貨物線として使用されていました。東海道線を離れると高架線になり、新幹線の車庫へと至る「東海道新幹線回送線」と構造を共有して並走し、東京貨物ターミナルまで至ります。東海道新幹線回送線は東京貨物ターミナル駅に隣接する新幹線大井車両基地に向かいます。
つまり、線路用地や高架などの構造が既に存在するため、それを有効活用する形です。ただ、東海道線と大汐線の間には東海道新幹線が通っています。そこで、田町駅手前(浜松町駅側)から単線のトンネルを建設し、立体交差する形で大汐線に入ります。トンネルの用地は、現在山手線の内回り・外回りの間に存在する「山手線引上げ線」を廃止し、線路を一つずつずらすことによって、東海道線の上下線の間にスペースを確保します。
まずはこの区間を見にいきましょう。
田町駅にやってきました。田町駅の浜松町駅方に山手線の引上げ線があります。
航空写真では引き込み線が映っていますが、線路は2023年中に撤去されており、現在は更地になっています。
京浜東北線北行の車内から引込み線跡地を見てみました。すでに線路はありません。
山手線引上げ線を山手線外回りに、そして山手線外回りの線路を京浜東北線南行に、京浜東北線南行の線路を東海道線上りに、というようにずらすことで、東海道線の上下線の間にアクセス線の用地が確保されます。つまり、アクセス線の起点は田町駅の手前となります。この東海道線から大汐線までのトンネル区間を「大汐短絡線」と呼びます。
【追記】2024年4月、田町駅周辺での試掘調査において、高輪築堤の石積が確認されたため、計画を変更し、アクセス線の下り勾配の開始地点を約 100m 品川方に変更することで高輪築堤の一部を現状のままで保存することが発表されました。「羽田空港アクセス線(仮称)における高輪築堤等の調査・保存について」
歩いて本芝公園の地下道にきました。ここに東西の連絡通路があります。そのため、アクセス線はこの本芝公園より浜松町寄りで地下に入り、地下でこの地下道と交差するのではないでしょうか。
引込み線は、この連絡通路に架かる橋の浜松町側(左側)から伸びていました。今度は山手線外回りが走るわけですが、用地自体は田町駅のすぐ手前まであり、この地下道に架かる橋にもその分の線路用地があります。
今度は田町駅の芝浦口(東口)側にやってきました。東海道新幹線との間に敷地があることがわかります。これが大汐線の敷地です。数年前までは線路がありましたが、すでに剥がされています。
もともと線路のあった場所には配管のようなものが配置されています。
こちらは同じ場所の2020年11月時点での写真です。単線の線路があるのがわかります。
東京方も同様です。すでに休止されて長く、工事用車両が入るためか線路は砂利に埋められていました。
大汐線の書類上の起点は浜松町駅ですが、線路用地の一部が田町~浜松町の間で進行中の大規模複合開発
「芝浦一丁目プロジェクト」に含まれるため、登録上も消滅するものと思われます。
続いて大汐線が東海道線と分岐する地点に架かる札の辻橋にきました。
大汐短絡線のトンネルは、札の辻橋付近で東海道新幹線と交差します。交差して地上に出てくるのがこの付近です。すでに事務所なども建てられて、工事が開始されていることがわかります。大汐線はこの先で東海道新幹線回送線とともに左手に分岐していきます。
田町駅から大汐線に沿ってしばらく歩いたところにある港区芝浦の「ぞうさん公園」近くの運河沿いにやってきました。2本の高架線が建ち並んでいます。右側の高架線は東海道新幹線の回送線で、日常的に車両が走っています。左側が大汐線で、羽田空港アクセス線となる路線です。この区間は複線となります。現在は架線は剝がされており、架線柱のみが存在します。
大汐線の方は架線柱のみが残っています。線路は複線です。線路内の様子を見るには近隣のマンションなどから眺めるほかはないようです。
ちなみに両路線は営業路線ではないのでGoogleマップなどでは薄い線でしか描かれていませんが、街中の地図を見るとしっかりと描かれています。私が先ほどいたところは画面左下の新芝運河と高浜西運河が交差する地点です。
大汐線及び東海道新幹線回送線は途中で東京モノレールや首都高速1号などと交差しながら品川区八潮にある東京貨物ターミナル駅及び新幹線大井車両基地に向かいます。
バスに乗って、東京モノレールと交差する、京浜運河の手前のところに来てみました。ちょうど東京駅へ回送される東海道新幹線が通り抜けていきました。左側が首都高速1号、右側が東京モノレールで、大汐線と東海道新幹線回送線はさらにその上を通っています。
このジャンクションを反対側から眺めます。東海道新幹線のと比べ、大汐線のトラス橋は錆びてしまっています。今度は東京モノレールが浜松町に向かって走ってきました。よく見ると、東海道新幹線回送線と大汐線は構造を共有しているのがわかります。これはどちらも同時に建設されたためです。もともと東京貨物ターミナルは新幹線を利用した「夜行貨物列車」の計画のための土地であり、計画がとん挫して以降の1973年に開業しました。その際東京貨物ターミナル駅から汐留駅まで建設されたのが東海道貨物線の一部である大汐線です。東海道新幹線回送線は山陽新幹線直通に際して車両基地の必要性から大井車両基地が設けられ、その際に誕生しました。いずれも1973年の開業です。
大汐線及び東海道新幹線回送線は道路と交差するたびにトラス橋を設けています。ここを7年後は東海道線や特急の車両が駆け抜けていくと思うと楽しいですね。また、乗客が地下駅である羽田空港を出て最初に目にする区間がこの東京貨物ターミナル~田町間の風景です。
今度は線路内を見るため、東京貨物ターミナルの手前にある都道316号線の大井北部陸橋にきました。大井北部陸橋は首都高速湾岸線と大汐線、そして東海道新幹線回送線をまたぐ橋です。左側奥の線路が東海道新幹線回送線で、手前の3本の線路が大汐線です。3本のうち一番左側の線路には架線が張られ、線路状態も良いように見受けられます。東京貨物ターミナルでの入れ換えなどに使われているのでしょう。あとの2本は土に埋もれています。また、左から2番目にも橋があることから、計4本分の線路用地があるようです。
次に、東京貨物ターミナル駅にも向かいます。東京貨物ターミナル駅はJR貨物の駅ですが、JR東日本が保有する用地もあり、その用地を用いて車両留置線や保守基地線が設けられる見込みです。
都道316号線と競馬場通りを繋ぐ大井中央陸橋から、東京貨物ターミナル駅の東側を眺めます。ちょうど貨物列車が出発したあとでした。機関車がたくさん留め置かれています。東京貨物ターミナル駅は品川駅や大井町から都営バスでアクセスできるほか、東京モノレールの大井競馬場前駅からも歩いていけます。
隣接する東海道新幹線の大井車両基地も見てみましょう。いまは夕方なので多くの列車が出払っていました。夜になると満杯になります。新幹線がずらっと並ぶ景色は圧巻。
本題の、アクセス線となる線路の部分を眺めます。この真ん中の線路が大汐線で、この線路と、左側の草生した部分がアクセス線となります。複線で整備されます。また、この区間は地上を走ります。この奥に留置線などが整備される予定です。
ちなみに右隣にあるのはりんかい線の車両基地で、りんかい線の本線を東京テレポート駅から天王洲アイル駅手前で出入庫線が分岐していて、この東京臨海高速鉄道東臨運輸区までやってきます。この出入庫線は大汐線に沿うようにして地下を進み、車両基地手前で地上に出ます。りんかい線はもともとは京葉線の線路として作られたものであり(旧国鉄京葉貨物線)、京葉線は東京駅ではなく東京貨物ターミナル駅にくる予定であったため、出入庫線もその計画のもとに作られたものです。
そのため、りんかい線を介する「西山手ルート」、「臨海部ルート」のうち、「臨海部ルート」についてはこの出入庫線を通って車両基地手前でアクセス線に合流する計画のようです。出入庫線は複線化される見込みです。また、「西山手ルート」はここから「東品川短絡線」を建設し、りんかい線の品川シーサイド駅と大井町駅との間で合流させる予定です。建設時期は未定です。
東京貨物ターミナルから羽田空港までは新たな線路が建設されます。東京港野鳥公園手前で地下に入り、東京都中央卸売市場大田市場を迂回するようにして、京浜運河、京浜南運河を渡り、羽田空港へと入ります。最大深度約50メートルの複線のシールドトンネルとなります。新線区間の最高速度は時速110キロとなる見込みです。
最後にモノレールに乗って羽田空港を見にいきます。第二ターミナルにやってきました。
羽田空港では第一ターミナルと第二ターミナルの間にある空港構内道路(首都高速湾岸線と第二ターミナル駐車場「P3」の間)の下に、羽田空港新駅(仮称)が設けられます。京急線の羽田空港第1第2ターミナル駅の手前です。羽田空港新駅は1面2線の島式ホームです。駅の下を東京モノレールが交差します。
首都高速と駐車場「P3」との間の道です。駅はちょうどこのあたりになります。
駐車場「P3」と「P4」との間に覆いがされていました。西松建設による地下歩道を作る工事とあります。これはアクセス線関連ではなく、京急線の羽田空港第1・第2ターミナル駅引上線を作る工事に関するものだと思われます。
現在のところ、アクセス線は最大15両編成(上野東京ラインの編成)まで対応し、運転本数は8本/時・144本/日を計画しているそうです。とはいえまだまだ開業まで7年もあり、運用や車両については今後の発表を待ちたいところです。
羽田空港アクセス線については2000年ごろから検討されており、2013年のJR東日本による中期経営計画『グループ経営構想V「今後の重点取組み事項」について』が発表されると急速に検討が進みました。当初は2028年の開業が見込まれていましたが、現在のところ2031年度の開業予定となっています。
先に述べた通り、2031年に開業するのは「アクセス新線」及び「東山手ルート」、つまり東海道線系統のルートです。その他の2ルートについては「東山手ルート」の開業後に着工されるものと思われます。大規模な工事としてはりんかい線の出入庫線を複線化するだけの「臨海部ルート」と比べて、「西山手ルート」は新たに長いトンネルが必要です。いずれもりんかい線を介するルートであり、料金収受の問題があることから、開業に合わせてJR東日本が東京都より東京臨海高速鉄道の株を取得し、JR東日本傘下に収めることと思われます。
個人的には、実際に着工された「東山手ルート」については羽田空港と東京駅が一本で繋がることの意義が大きいと感じます。特に、増え続ける訪日観光客にとっては羽田空港〜新橋〜東京〜上野と繋がっていることの分かりやすさは絶大でしょう。また「臨海部ルート」に関しては、沿線住民のメリットだけでなく、東京ディズニーリゾートに一本で行けるなどの観光客目線のメリットも大きいと感じます。
今後の展開が楽しみですね。
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