西武鉄道に東急電鉄/小田急電鉄から「サステナ車両」が譲渡
西武鉄道では、持続可能な社会の実現に向けた取り組みを推進しており、CO2排出量を2030年度までに2018年度比で46%削減、再生可能エネルギー導入率を2030年度までに50%とする目標を設定しています。その中で、主な取り組みとして省エネ性能の高い西武40000系の新造と、他社からの「サステナ車両」の導入が挙げられています。
2023年9月に発表されたプレスリリースでは、他社から導入する「サステナ車両」について、東急電鉄から東急9000系、そして小田急電鉄から小田急8000形がそれぞれ譲渡されることがわかり、話題になりました。それぞれの車両についておさらいしていきましょう。なお、「サステナ車両」とは西武鉄道独自の呼称であり、VVVFインバーター制御車両を意味します。
東急9000系
東急9000系は1986年にデビューしました。東急で初めて交流モーターを導入し省エネ化された車両です。軽量ステンレス鋼製の20m級4ドア車。当初は東横線の主力車両として活躍し、副都心線直通後は大井町線で活躍しています。東急最古参の形式でもあります。内装はロングシートです。
西武鉄道に譲渡されるのは4両編成で計60両程度。現在東急電鉄には5両編成が15本、計75両が在籍しており、大半が譲渡される形になります。なお、東急では9000系の置き換えとして新型車両の導入が決定しています。
譲渡される東急9000系は現在の5両編成から4両編成となり、西武多摩川線、西武多摩湖線、西武秩父線、西武狭山線にて運用されます。なお、西武鉄道での形式は未定です。すでに西武9000系という形式があるため、違う数字になるでしょう。同じく4両編成が走る支線系統である西武園線では東急9000系車両が入ることはないようです。また、西武線での塗装もどうなるかは未定です。現在の赤系の帯が西武らしいカラーリングに描き換わるのでしょうか。西武線の幅広い範囲で見られることになりますから、塗装は重要ですね。
また、同じく大井町線で活躍している東急9020系も譲渡される予定ですが、詳細は不明です。東急9020系はもともと東急2000系を改造したものです。
小田急8000形
小田急8000形は1982年にデビューしました。通勤車両の主力として全線で活躍し、2003年のリニューアル工事によってVVVF化を行い、省エネ化が進められました。4両固定編成と6両固定編成が存在します。すでに廃車が始まっており、現在在籍するのは4連が9本、6連が10本の計96両。内装はロングシートです。
西武鉄道に譲渡されるのは、6両編成で約36~42両の予定。西武国分寺線で使用されます。国分寺線では現在6両編成の新2000系が使用されていますが、車両は新宿線系統と共通のもの。かねてから国分寺線用の車両を用意する必要が見込まれていました。なお、こちらも西武鉄道での形式は未定です。なお、西武でも8000番台は存在し、西武8500系が西武山口線のAGT車両として活躍しています。また、こちらも西武線での塗装がどうなるかは未定です。8000形は東急車と違い、無塗装ではなく全面に塗装が施してありますから、西武線でのカラーリングもさらに面白くなるでしょう。
置き換えが完了するとどうなる?
すべての置き換えが完了すると、西武鉄道では車両のVVVFインバーター制御化100%となり、年間年間 約5,700tのCO2削減が可能になります。
また、現在西武秩父線で活躍している西武4000系はセミクロスシートの車両ですが、東急9000系に置き換わることでロングシート化されます。今後も運行され続けるであろう「西武旅するレストラン 52席の至福」や特急型車両以外でのクロスシート車の運行はなくなることに。さらに、新101系や4000系が置き換わることで3ドア、2ドアの形式がなくなることになります。
ちなみに、西武鉄道が直通運転している秩父鉄道でも元東急車両の東急8500系(秩父鉄道7000系)と東急8090系(秩父鉄道7500系、7800系)が使われており、直通運転が継続されれば直通列車にも元東急9000系が使用されるであろうことから、秩父鉄道内では3形式の元東急車が見られることに。また、東武東上線にも小川町まで東急車が直通運転しているため、埼玉県西部のいたるところに東急車がみられることになりますね。ただ、直通運転に関しては秩父鉄道側にVVVF車の入線実績がなく、どうなるかは見通せません。
どのような経路で譲渡されるか
東急9000系に関しては、東急電鉄と西武鉄道は直通運転をしていますから、順当に考えると東急東横線から東京メトロ副都心線を介して西武池袋線へと回送されるものと思われます。
小田急8000形に関しては、小田急電鉄と西武鉄道は直接接していませんから、JR線を介して回送されることになります。小田急電鉄とJRの間の輸送は、小田急小田原線の新松田駅からJR御殿場線の松田駅までの連絡線を介して行われます。普段特急ふじさん号が通過している線路です。
喜多見車両基地を出た8000形は松田でJRに受け渡され、御殿場線からは国府津を経由して東海道線に入ります。相模貨物駅で東海道線から東海道貨物線に転線して横浜羽沢駅に送られ、その後、武蔵野貨物線に入り、府中本町から武蔵野線に入って新秋津まで向かいます。武蔵野貨物線から武蔵野線へは臨時の特急鎌倉号が使用しているルートです。
西武鉄道とJRとの間の輸送は武蔵野線の新秋津駅と西武池袋線の所沢駅とを結ぶ連絡線を介して行われています。連絡線は西武鉄道が保有しており、新秋津駅で西武鉄道に引き渡され、西武鉄道の牽引機である新101系263fによって西武池袋線に入ります。
JRと西武の連絡線についてはこちらをご覧ください。
今後の流れ
今後の流れとして、2024年度より運行ということで、まずは小田急電鉄からの小田急8000形の譲渡が行われそうです。試運転は池袋線や新宿線でも行われるのではないでしょうか。
西武鉄道では、保有車両のVVVFインバーター制御化100%は2030年度までに進められる予定ですが、前述の4000系を用いた「西武旅するレストラン 52席の至福」や、特急型車両10000系「ニューレッドアロー」などはVVVFインバーター制御ではないため、こちらも動きがありそうです。特に新宿線特急に関しては廃止のうわさもあり、目が離せません。
このほか、西武鉄道の取り組みとして、既存車両の省エネルギー性能の高い走行機器への更新や、100%西武グループの太陽光発電による山口線(レオライナー)の運行が行われています。
現在運行されている様子を見にいく
最後に、今後小田急8000形が入る西武国分寺線の現在の様子と、東急9000系が入る路線を代表して西武多摩湖線の現在の様子を見に行きます。
まずは西武国分寺線を見に行きます。東村山駅にやってきました。東村山駅は高架化工事中で、2028年度末に完成する予定です。現在国分寺線では新2000系6両編成が東村山~国分寺間の折り返し運転を行っています。以前は新宿線や西武園線に直通する列車もありましたが、高架化工事に伴い休止されました。
同じく東村山駅から発着する西武園線は「サステナ車両」への置き換え対象にはなっていませんが、新2000系はVVVFインバーター制御ではないため、車両数が同じである多摩湖線の西武9000系ワンマン列車が玉突き的に西武園線に入るかもしれません。
国分寺線に乗って国分寺駅に着きました。国分寺線の国分寺駅のホームは1面1線で、中央線のホームに接しています。
こちらは中央線側から見た景色です。ここに小田急車が入ると思うと面白いですね。いずれ当たり前になり、現在の新2000系が入る景色が過去のものになります。
続いて多摩湖線を見に行きます。同じく国分寺駅から発着する多摩湖線のホームは、異なる会社であった歴史的経緯から、国分寺線のホームとは別の位置にあります。階段を上がり北側にしばらく進むと多摩湖線のホームがあります。こちらも1面1線のホーム。
多摩湖線のホームは狭く、ビルの裏手にあるような雰囲気。ここに4両編成の東急車が入ると、さながら地方私鉄のような趣になるでしょう。単線で、萩山駅で拝島線に接するほかは終点の多摩湖までコトコト進みます。全線が東京都内ですが、営業係数が250を超える赤字路線です。
現在走る西武9000系はVVVF化されていますから、当面は残されて西武園線などを走るのではないでしょうか。
今後の展開が楽しみですね。また動きがある際に見に行こうと思います。