JR東日本の久留里線は、千葉県の房総半島を走る非電化路線です。内房線の木更津駅から上総亀山駅までを結びます。
昨年JR東日本が公表した、利用者の少ないローカル線の収支において、久留里駅~上総亀山駅間の2019年度の収支率が0.6%という衝撃的なデータが明らかになりました。これはJR東日本管内で最も低い数字で、100円稼ぐコストが19,190円かかるという計算です。
久留里線は大正時代にはもう開業しており、千葉県営鉄道として営業後、国有化されました。構想では房総半島を東西に繋ぐ路線として延伸される予定でしたが、日中戦争による資材不足などでとん挫し、今に至ります。いすみ鉄道(旧国鉄木原線)と小湊鉄道が接続し、横断路線となったのとは対照的です。
国鉄の諮問委員会による赤字路線廃止の勧告を免れたのは、当時、京葉工業地帯の発展による将来性が期待されたため。しかしその後もアクアラインの開業などモータリゼーションが加速し、房総半島全体の鉄道の需要がマイカーや高速バスに奪われていきました。
首都圏にありながら、全線が単線、非電化で、Suicaも使えません。また、並行して走る高速バスが(久留里線区間内での乗降はできないものの)東京駅や千葉駅へ直線結んでおり、本数も多めです。
そんな、存続が危ぶまれている久留里線に乗車しました。
まずは千葉駅から内房線に乗車して木更津まで向かいます。途中の五井駅では小湊鉄道の古いディーゼルカーがたくさん見られました。
進行方向左側に座ると見られます。小湊鉄道、いすみ鉄道と乗り継いで房総半島を横断するのもよいですね。
木更津駅に入る手前で左手から久留里線が合流してきます。レンコン畑が広がっていました。
木更津駅に到着しました。特急も停車する主要な駅です。乗ってきたのは209系。駅前のバスターミナルからは東京や横浜方面に多くの高速バスも出ています。
久留里線は木更津~久留里間は毎時1本程度ありますが、その先の本数はまばら。しっかり計画して乗る必要があります。
同じホームの反対側に久留里線が停まっていました。使用車両はキハE130系気動車。ほかに、水郡線や八戸線で走っています。久留里線に使用されるのは100番台。オールロングシートでトイレはついていません。首都圏では気動車自体がめずらしいもので、私は八高線のキハ110系以来の乗車です。
奥の車両基地にはほかに4編成停まっていました。ホームの端に線路が広がっていて車両が留置されている様子は懐かしい風景です。
乗車するのは2両編成。日中は1両での運転もあるそうです。
1両ごとに運転台がついています。連結部分は通行可能です。
平日日中なので、木更津発車時点での乗車率は1両に15人程度。木更津を出ると右手に大きく曲がり、小櫃川に沿って住宅街を進んでいきます。無人駅では前の車両のドアしか開きません。
有人駅の横田駅に停車します。2面2線の交換可能な駅です。駅舎は平屋の昔ながらのもの。この電車は交換はありませんでしたがダイヤ上数分停車しました。木更津と久留里以外ではこの横田のみ、すべてのドアが開きます。
Suicaなどで乗ってきた人は精算しなければならないなど時間がかかるためか、各駅で停車時間が余裕をもって設定されています。無人駅では前の車両の一番前のドアまで移動しなければならず、一駅に意外と時間がかかります。
無人駅で乗るには前の車両の一番後ろのドアから。乗車時に乗車駅証明書を取り、降車時に料金とともに運賃箱に入れます。昔は地方交通線ではよくあったスタイルですが、今でも首都圏で見られるとは少し驚きました。
横田を出ると住宅街から田園風景に変わり、並走していた房総横断道路と分かれます。
馬来田(まくた)駅に停車です。横田に続いて立派な駅舎で交換可能な設備を持ちますが、こちらは無人駅。ずっと田んぼの中でしたが、馬来田は駅前に商店などがあります。
かつては2面2線の交換可能駅だったそうで、このように貨物取扱の跡地も残っています。
馬来田を出ると久留里街道と合流します。このまま上総亀山までほぼ並行して走ります。いままで東に向けて走ってきましたが、これからは南に向かいます。緩やかなカーブで右折していきます。
小櫃駅に到着。簡素な駅舎が多い中、小櫃駅は小さいながらも立派。この先も小櫃川沿いを進みます。
久留里線のスピードは遅く、最大で時速40キロぐらいでしょうか。駅に近づくと20キロほどになります。
この列車の終点の久留里駅に到着です。構造は2面2線で、上下線が互い違いに停車します。手前には次の木更津行きの列車が停車中。
久留里まで乗車したのは7、8人ほど。観光客風の方も数人いました。2番線の反対側にも線路が。かつては2面3線の構造でした。
次の木更津行きは帰宅の高校生で大混雑しています。
駅舎は木造で相当古く、この駅を見に来るだけでも価値のあるものです。有人駅で窓口や券売機もあります。開業は大正元年。
次の上総亀山行きまで1時間ほどあるので駅付近を散策します。駅のすぐ横には立派な蔵が。地酒のミュージアムでした。
隣には平成の名水百選にも選ばれた久留里の名水を無料で汲める場所も。次々に水を汲みに来る人がいました。
ちかくのお蕎麦屋さんで昼食をとり、久留里駅に戻ります。
久留里駅の券売機で切符を購入し、再び乗車して、終点の上総亀山駅を目指します。乗車時間は約15分強。乗ってきた列車はまだそこにいました。次の木更津行きとして上総亀山行きと同じ時間に出るようです。
首都圏でこれほど昔の鉄道施設の面影を残している場所もそうはないでしょう。奥のほうでキジが散歩しているのも見えました。
キハE130系はE231系の構造を踏襲しているとのこと。フォルムが確かにそんな感じ。キハE130系が入る前の使用車両はキハ38形。八高線で使われていた車両で、現在は岡山県の水島臨海鉄道で運行されています。
列車が来るまでしばし駅構内を見学。木製の運賃箱が置かれていました。いつからあるのでしょうか。
上総亀山行きの乗客がみたところ観光客のみという感じ。次第に山深いところを進んでいきます。
並行する小櫃川も流れが急に。
途中の上総松丘駅に到着。このあたりは県道も近く、住宅地のそばを進んでいきます。
小櫃川はこのあたりではかなり蛇行しており、川沿いの平地を久留里線も川に沿うようにして走ります。
ゆっくりと列車は終点の上総亀山駅に到着です。途中の乗降はなく、皆上総亀山で下車しました。この列車は折り返しすぐに木更津行きになります。ホームが2両編成分しかないため、3両編成での運行時は1両分ドアカットして乗降します。
こちらも駅舎は古め。無人駅です。
かつては2面2線の駅でしたが、現在使えるのは1線のみ。夜間停泊をするそうです。
2012年に無人化され、窓口も閉鎖されています。
駅前には商店などがまばらに存在します。
線路の末端部に来てみました。計画ではこの先、国鉄木原線(現在のいすみ鉄道)と繋げて横断路線となるはずでした。
列車の発車を見送り、周辺を観光します。まずは小櫃川にかかる川俣大橋へ。趣ある赤い鉄橋です。
続いて亀山ダムへ。貸しボートがあり、ボートを楽しむことができるようです。
帰りは、上総亀山から再び木更津へと折り返すほうが少しでも路線に貢献することにはなりますが、普段から利用可能な沿線住民ではないですし、並行する高速バスの実情も見たかったので、高速バスで戻ることに。
久留里線に並行する高速バスとしては、亀田病院・安房鴨川駅から久留里駅、小櫃駅、木更津金田バスターミナルなどを経由して、東京駅へ向かう高速バス「アクシー号」が毎時1~2本ほど。そのうち3本は東京タワーまで延長運転します。日東交通と京成バスが運行しています。
また、亀田病院・安房鴨川駅から亀山・藤林大橋(上総亀山駅からすぐ)、久留里駅、小櫃駅、馬来田駅、東京ドイツ村を経由して蘇我駅、千葉駅へと向かう高速バス「カピーナ号」が1~2時間に1本運転されています。こちらは日東交通と千葉中央バスが運行しています。
ということで、上総亀山駅近くの亀山・藤林大橋から乗れる「カピーナ号」に乗車して千葉駅まで向かいます。バス停は県道沿いですぐわかります。
15:23発の千葉中央交通の便がやってきました。Suica・PASMOが使えます。
車内は電源付きのリクライニングシートで、ゆったり快適。途中高速道路を経由するためシートベルトを着用します。平日午後の都心方面ですが、窓側がほとんど埋まるほどの乗車率。
反対側のバス停からは安房鴨川駅方面に行けるので、安房鴨川に行く際に片道は外房線の特急で、片道はこのバスと久留里線に乗っても楽しいかもしれません。
バスは先ほど久留里線と並走してきた久留里街道を進みます。「久留里城三の丸跡」バス停からは久留里城跡が見えました。
続いて「久留里駅前」に停車します。乗車される方がいらっしゃいました。久留里駅のすぐ近くですが、駅前と異なり、久留里街道沿いはお店が多く賑わっています。この写真は先ほど久留里駅付近を散策した際に撮ったものです。向かい側にはちょうどカピーナ号かアクシー号が。
以前は木更津金田経由の渋谷駅行き「シーバレー号」というのもあったようですが、現在は運休中。それでもバスは東京駅線、千葉駅線合わせて1時間に1~2本は来ます。
また、ローカル線に乗るとよくあることですが、列車の車窓ではすごく辺鄙なところを縫って走っているように見えるのが、車で通ると思った以上に賑わいのある地域だったと感じられることがあり、久留里線でもそれを感じました。ローカル線であればあるほど、人の往来は道路沿いにあります。
久留里駅前にはあまりにも美しい金物店が。
ちなみに上総亀山駅(亀山・藤林大橋バス停)から千葉駅までの運賃はバスは1,680円、鉄道は1,340円。所要時間はバスが約1時間30分で、鉄道が約2時間。
バスのほうが運賃は少し高いですが、所要時間、本数ともに優位性があるためこの値段にしているのでしょう。加えてリクライニングシートでゆったり座れ、充電もでき、千葉駅まで乗り換えなしで行けます。
房総半島は全体的にバスが優位ですが、このカピーナ号はアクアラインを使わずとも久留里線沿線から千葉駅までショートカットし、沿線客の支持を得ているようです。
久留里街道は久留里線の線路と何度か交差します。
小櫃駅前、馬来田駅前と停車して久留里線とわかれ、久留里街道は北上していきます。小櫃駅前でも乗車がありました。袖ケ浦市平岡で右折、東京ドイツ村に入ります。
平日のためかドイツ村では乗降はなく、バスは姉崎袖ケ浦インターから東関東道館山線に入ります。高速道路は渋滞もなく進み、松ヶ丘インターで降りて蘇我駅、県庁へ。モノレールが頭上を走り始めます。急に都会の景色になりました。
すぐに終点の千葉駅に到着です。バス停は千葉駅前大通り沿い。1時間半はあっという間でした。
私が久留里線の沿線住民なら、通勤や病院などで木更津市内へ出る場合は本数を気にせず小回りが利く車で行くでしょうし、千葉駅や都内へ出る場合は乗り換えがなく必ず座っていける高速バスをどうしても選ぶでしょう。横浜方面へも木更津金田BTでの乗り換えはかなり使えます。
しかし地方の多くの赤字ローカル線と同じように、久留里線も時間帯によっては高校生でごった返していましたし、同じく交通弱者である高齢者の利用も少なくないでしょう。採算性の課題をクリアし、地域のための交通機関として生き残ることを期待します。