秩父鉄道は埼玉県を秩父市から羽生市まで横断するローカル線で、沿線の通勤通学や秩父・長瀞への観光需要を担っています。全線が電化された単線で、普通列車のほかに急行列車「秩父路」や、臨時のSLパレオエクスプレスなども運転されています。また、石灰石などの貨物輸送も担ってきました。
その歴史は古く、開業は1901年。三峰口~寄居は山岳地帯の観光路線、寄居~羽生は都市近郊の通勤通学路線といった役割で、普通列車の運行本数は1時間に1~2本ほど。土休日には西武鉄道からの乗り入れ列車もあります。
急行列車「秩父路」は急行券が必要でしたが、2022年3月の秩父鉄道でのPASMO導入にあわせて、当面の間急行券が不要に。改めて乗りに行くことにしました。
まずは秩父を観光します。秩父の中心は秩父鉄道の御花畑駅から秩父駅のあいだ。モダンな建物が並び、わくわくさせられます。
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西武秩父までは全車指定の特急Laviewに乗車しました。所沢から西武秩父まで特急料金は500円。窓が非常に大きく見晴らしのいい車両で、座席もユニークです。
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秩父神社の参道から裏道を通り、御花畑駅へ。ここから急行「秩父路」に乗ります。
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副駅名は「芝桜駅」。西武線の西武秩父駅からは徒歩5分ほどの距離です。相互乗換駅で運賃計算上は同一駅。
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御花畑駅は駅舎が国登録有形文化財。雰囲気が素晴らしいです。2022年に全線でPASMO導入されましたが、駅員さんもいます。駅前にも味のある食堂などが並びます。駅構内に立ち食いそばもありましたがその日は営業していませんでした。
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2面2線のホームですが、向かい側のホームは西武線直通専用なので、ほとんどの列車は1番線から発着します。
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西武線からの乗り入れは意外と新しく、1989年から。
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急行「秩父路」の乗車位置が。3両編成です。
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左側奥の一段高い位置にあるのが西武鉄道の西武秩父駅。直通用の線路が伸びているのが見えます。現在は土休日に、朝から2本が飯能駅から8両編成でやってきて横瀬で分割、片方は横瀬から連絡線を通って御花畑駅へ、さらに長瀞駅まで乗り入れます。もう片方は一度西武秩父駅に入り、その後スイッチバックして三峰口駅に乗り入れます。夕方に2本今度は逆方向に飯能まで向かいます。以前は平日にも走り、土休日には池袋駅から快速急行が直通してきていました。
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御花畑駅15:30発の秩父路が入線してきました。この列車は隣の影森駅始発の列車です。秩父路は土休日は熊谷発三峰口行きが午前中に2本、影森発熊谷行きが朝に2本、夕方に2本運転されています。※ダイヤ改正で現在は平日2往復、土休日1往復に減便されました。
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この車両は非常に面白く、西武鉄道の通勤型の新101系を大幅に改造して急行型にしたもので、秩父鉄道6000系と呼ばれています。4両編成の101系を3両編成とし、3ドアだったのを真ん中のドアを撤去してふさぎ、2ドアに。
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よく見るといかにも通勤型列車の趣。
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座席はもともとオールロングシートだったものを外し、西武線のニューレッドアローに使われていた特急用の座席を転用。すべてクロスシートになりました。
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シートはいわゆる集団見合い式で、背面のテーブルのほかに、座席の間に小さなテーブルがついています。特急型のものなので一応リクライニングはしますが、浅め。
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それでは出発です。停車駅は、影森、御花畑、秩父、皆野、長瀞、野上、寄居、武川、熊谷。現在では羽生までの急行運転はありません。
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ひと車両にたったの数人ほどで出発。すぐに次の秩父駅に停まります。こちらは秩父神社の最寄り駅。
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続いて大野原駅で運転停車します。単線なのでこうして頻繁に交換待ちがあります。
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向かい側には長瀞始発の西武線直通の各駅停車飯能行きが。西武4000系4両で運転されています。
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大野原駅を過ぎると、秩父太平洋セメント秩父工場と貨物駅である武州原谷駅が見えてきます。広大な敷地が広がっています。
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留置されている石灰石用の貨車も見えます。ここから三ヶ尻の工場まで運ばれます。
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荒川にそそぐ横瀬川を渡ります。昨夜の台風で濁流。この先のさらに茶色くなったところが荒川。右手の荒川と横瀬川に囲まれた場所にはかつて諏訪城がありました。天然の要塞です。現在は諏訪神社が建立されています。
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和同開珎の原料が採掘されたエリアに近い和銅黒谷駅を通過して、皆野駅に停まります。どちらも木造の美しい駅舎です。
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親鼻駅も通過し、上長瀞駅の手前で荒川を渡ります。この橋は荒川橋梁と呼ばれ、花崗岩とレンガで造られた非常に美しい橋です。多くの写真家に人気のスポットでもあります。三峰口からここまでは荒川の右岸を通っていましたが、ここからはずっと左岸を通ります。
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上長瀞駅で普通列車の羽生行きを追い越します。後で熊谷に着いてからこの列車に乗り羽生まで行きました。秩父鉄道5000系電車。かつて都営三田線で6000形として走っていた車両が3両編成で運転されています。
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観光地である長瀞に到着。長瀞駅で大半の人が降り、また、多くの観光客が乗り込んできました。寄居で東武東上線に乗り換えるのでしょう。西武線直通の列車は長瀞駅が終点。現在は土休日朝に2便、夕方に2便発着します。
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長瀞は秩父市ではなく長瀞町。町内二つ目の急行停車駅、野上駅に連続して停車します。ここからは寄居まで停まりません。SLパレオエクスプレスも停車する主要な駅です。
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車内からは写真が撮りにくいですが、三峰口〜寄居の山岳区間は素敵な駅舎が本当に多く、駅を見るためだけに降りたいほどです。特に波久礼駅がお気に入り。
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初秋の車窓に癒されます。寄居までずっと目が離せません。進行方向右側に座れば美しい荒川の流れが見られます。
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交通の結節点である寄居に到着。2分間停車します。ここで多くの人が降りていきました。寄居駅は秩父鉄道のほかに、東武東上線、JR八高線が発着しています。まず秩父鉄道の駅として開業し、続いて東武東上線が延伸してきて、最後に八高線が伸びてきました。現在も秩父鉄道が駅を管轄しています。ここは大里郡寄居町。街の真ん中を流れる荒川を渡ると、寄居城の跡があります。
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寄居からは路線の雰囲気が変わり、羽生まで平野部を走る通勤通学路線という雰囲気に。埼玉県を横断するだけあって多くの他社線と交差します。寄居でも数名の乗車で出発。窓から東上線の電車が見えました。
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それぞれのホームの間には大量の中線があり3社の線路は相互に繋がっていて、東武東上線と秩父鉄道との間では甲種輸送が行われています。かつては東上線から秩父鉄道長瀞駅まで直通列車があったそうです。
しばらくJR八高線と並走。その後秩父鉄道は右に曲がって熊谷を目指します。八高線は高崎へ直進。
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寄居を出ると田園地帯が広がる平野部に出ます。桜沢、小前田と通過し、2018年に開業した新駅・ふかや花園駅を通過します。ふかや花園駅は熊谷市が全額負担した請願駅で、2022年10月に開業する「ふかや花園プレミアムアウトレット」の開業のために造られました(新駅を造ることで予定地の「優良農地」を解除するため)。また、近隣にはすでにキューピーによる「深谷テラス ヤサイな仲間たちファーム」というテーマパークもオープンしています。駅は現在は急行・SLとも通過しますが、有効長はSLも停まれる長さになっています。
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2面3線を有する永田駅を通過。
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続いて武川駅に停車します。武川駅から先で後述する秩父鉄道三ヶ尻線が分岐するため、構内に貨物線が多く敷かれています。また、機関車たちの基地でもあるそうです。SLも停まります。カラフルな機関車たちが見えました。
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武川駅を出ると、しばらくして三ヶ尻線が分かれていきます。三ヶ尻線も秩父鉄道の路線で、貨物専用。太平洋セメント熊谷工場のある三ヶ尻駅まで繋がっています。三ヶ尻から先はJRの熊谷貨物ターミナル駅、そして高崎線と繋がっていましたが、鶴見線扇町駅から三ヶ尻駅への石炭輸送が廃止されたため、2020年に廃線に。
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三ヶ尻線では東武鉄道への甲種回送も担っていました。熊谷~三ヶ尻~羽生の経路で東武鉄道の本線系統へ、熊谷~三ヶ尻~寄居の経路で東上線へ。2020年に熊谷~三ヶ尻間が廃線になってからは、JR・東武日光線の連絡線がある栗橋駅で受け渡しが行われています。ただ、それにより秩父鉄道が車両の貨物輸送の収入を減らしたわけではなく、東上線の川越工場が検査を行わなくなったために東上線の車両を検査のために本線系統に送るという役割が新たに生まれています。ただ、東上線向けの新車の搬入もそうして栗橋~羽生~寄居の経路をとるのかは不明です(八高線経由も可能なため)。
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三ヶ尻線が分かれていくと、次の明戸駅で運転停車し、普通列車の影森行きと交換します。賑やかなラッピングが素敵。明戸駅もPASMO導入とともに無人化されました。
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次の大麻生駅を過ぎると、広大な車両基地が見えてきます。これは広瀬川原駅という貨物駅でもあります。秩父鉄道が毎年行う「わくわく鉄道フェスタ」ではここでSLの見学ができたりするようです。この日は7500系(かつての東急8090系)などが休んでいました。
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ひろせ野鳥の森駅を過ぎると、上越新幹線の高架が見えてきます。そのまま上越新幹線に沿うようにして石原、上熊谷を通過。上熊谷の手前でJR高崎線と合流します。
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運良く高崎線の15両編成と並走。同時に熊谷駅に入線しました。
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高崎線のホームと違い、趣深いホームに到着です。向かい側にはなんとSLパレオエクスプレスが。
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乗ってきた6000系「秩父路」を眺めます。前面の窓やドアは確かに新101系の形。スピードを出した時の爆音や揺れが楽しい電車でした。西武鉄道でもまだ101系は現役ですし、しばらくは残るでしょう。
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続いて、回送されていくSLパレオエクスプレスを見送ります。反対側に機関車がついており、先ほどの広瀬川原駅まで回送されます。パレオエクスプレスはC58形蒸気機関車と12系客車からなる臨時急行列車で、秩父路が主に通勤通学需要を取り込んでいるのに対し、こちらは観光の目玉として大変人気を博しています。
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6番線側には留置線が4本あり、5000系や7500系が留置されていました。ちなみに秩父鉄道と高崎線の間には渡り線があるそうなのですが、現在は使えないようになっているそうです。また、熊谷駅にはかつて東武鉄道も乗り入れており、妻沼地区までの路線を有していたそうです。
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先ほど上長瀞駅で追い抜いた普通列車羽生行きに乗り、終点の羽生まで向かいました。
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ワンマン運転なので、いちばん後ろから景色を眺めることに。
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熊谷を出ると、行田市内と羽生市内を走ります。のどかな風景ですが、街と街を結ぶ重要な路線で、通学利用が多く見られます。
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終点の羽生で下車し、東武線に乗り換えて帰宅しました。御花畑駅から羽生駅まで乗り通して990円。楽しい旅でした。
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