大回り乗車とは
大回り乗車とは、JR線の「大都市近郊区間」において有効な特例を利用した乗車方法で、初乗り運賃でできるだけ長い距離を乗車するという方法です。
大都市近郊区間とは、乗車経路が複数存在するエリア内で、どの経路を使っても最短経路で運賃計算するという目的で設定されています。これは乗客にとってわかりやすく、またJRにとっても発券業務、改札業務が簡略化されるという、双方に利益のある制度です。東京、大阪、福岡、新潟、仙台の5エリアに設定されています。中京圏にはありません。
特に東京近郊区間は広大で複雑な路線網を有するため、この制度を利用し、初乗り運賃だけで一日中列車の旅をすることが可能です。その際には以下のルールがあります。
・同じ駅を2回通らない
・途中下車不可
・有効期限は1日
・大都市近郊区間外には出られない
・特急列車には特急券を購入すれば乗車可
特に気を付けなければいけないことは、同じ駅を2回通らないことです。特急列車や快速列車を利用する場合、路線上乗り換える必要のある駅を通過してしまう場合があります。その先の駅で乗り換えても同じ駅を2回通ることになりますから、大回り乗車は成立しません。降車駅までの運賃を支払うことになります。また、駅の外に出ることはできません。食事等は改札内でする必要があります。
※大回り乗車は、大都市近郊区間におけるJRの旅客営業規則第157条第2項の規則に基づく「選択乗車」の制度として認められている行為です
JRの大都市近郊区間の初乗り運賃は150円(IC 146円)ですから、たったの150円で関東を一周したり、房総半島を一周したりと楽しみ方は様々です。
「年越し大回り乗車」
そんな大回り乗車ですが、年末年始の12月31日から翌年1月1日にかけては「年越し大回り乗車」という2日間にわたる大回り乗車が可能です。
12月31日から1月1日にかけては、特に参詣客向けに終夜運転が行われていて、終夜運転の列車から翌日の始発列車へと乗り継ぐことができます。大都市近郊区間内のきっぷの有効期限は通常は1日限りですが、JRのきっぷは第155条に「入場後に有効期間を経過した当該使用乗車券は、途中下車をしないでそのまま旅行を継続する場合に限って、その券面に表示された着駅までは、第147条の規定にかかわらず、これを使用することができる。」という規則があるため、深夜に駅が閉まることのない終夜運転の日に限って、140円で2日間移動し続けることが可能となります。JR東日本のHPにも「乗車中に有効期間を経過した場合は、途中下車をしない限り券面に表示された最終駅まで使用できます。」と書かれています。
【JR東日本 2024/2025の終夜運転】
JR東日本は、2024年12月31日から2025年1月1日にかけて、首都圏の7路線で終夜運転を行います。終夜運転を行う路線は山手線、京浜東北線・根岸線、中央・総武線各駅停車、中央線快速、横須賀線、総武本線・成田線です。
終夜運転等の臨時列車についてのJR東日本のプレスリリースはこちら
「年越し大回り乗車」のルート
そんな140円で最長距離の大回り乗車ができる「年越し大回り乗車」のルートは以下のようになります。
徹夜での2日間にわたる旅のスタートは、常磐線の北小金駅です。常磐線各駅停車のみが停車します。旅の終点は、2駅先の常磐線の馬橋駅です。こちらも各駅停車のみ停車する駅です。この北小金~馬橋間の大回り乗車が理論上最長距離の大回り乗車が可能な区間となるそうです。実際に経路を見ていきましょう。
北小金~友部 | 常磐線 | 千葉県の北小金から常磐線を北上し、茨城県の友部へ |
友部~小山 | 水戸線 | 水戸線を乗り通して栃木県の小山へ |
小山~新前橋 | 両毛線 | 両毛線に入り、群馬県の新前橋へ |
新前橋~高崎 | 上越線 | 実際の運行上は上記の両毛線が直通して高崎に向かう |
高崎~大宮 | 高崎線 | 高崎からは埼玉県の大宮まで一気に南下 |
大宮~高麗川 | 川越線 | 大宮から川越線を乗り通す/川越で乗り換えが必要 |
高麗川~八王子 | 八高線 | 川越からの列車が八高線に直通して八王子まで向かう |
八王子~橋本 | 横浜線 | 八王子からは横浜線で南下し神奈川県の橋本へ |
橋本~茅ヶ崎 | 相模線 | 橋本から単線の相模線を乗り通してさらに南下 |
茅ヶ崎~大船 | 東海道線 | 茅ヶ崎から東海道線で大船まで一気に進む |
大船~鶴見 | 根岸線・京浜東北線 | 根岸線・京浜東北線の直通列車で鶴見へ |
鶴見~浜川崎 | 鶴見線 | 新型車両が入った鶴見線で浜川崎へ/行き先に注意 |
浜川崎~尻手 | 南武線浜川崎支線 | 浜川崎から南武支線のE127系で尻手へ |
尻手~川崎 | 南武線 | 尻手から1駅の川崎へ |
川崎~品川 | 東海道線 | 川崎から東海道線で1駅の品川へ/京浜東北線も可能 |
品川~武蔵小杉 | 横須賀線 | 品川から横須賀線に乗り換えて武蔵小杉まで戻る |
武蔵小杉~立川 | 南武線 | 武蔵小杉から南武線で一気に北上 |
立川~西国分寺 | 中央線 | 立川から中央線に少しだけ乗って西国分寺へ |
西国分寺~武蔵浦和 | 武蔵野線 | 武蔵野線で埼玉県の武蔵浦和へ |
武蔵浦和~赤羽 | 埼京線 | 埼京線に乗り換えて赤羽へ |
赤羽~南浦和 | 京浜東北線 | V字を描くように京浜東北線で南浦和に戻る |
南浦和~西船橋 | 武蔵野線 | 南浦和からは千葉県の西船橋まで一気に進む/ ここでなんと北小金と馬橋の間の新松戸を通過する |
西船橋~佐倉 | 総武緩行線・総武本線 | 西船橋からは船橋や千葉などで乗り換えて佐倉まで/ この区間で年を越す/終夜運転に乗車する区間/ 成田駅で数時間待機する |
佐倉~松岸 | 成田線 | 成田駅で始発に乗って成田線を松岸まで/ 特急「初日の出号」などに乗ると、 松岸に停まらず銚子まで行ってしまうので注意 |
松岸~成東 | 総武本線 | 成東まで総武本線を進む |
成東~大網 | 東金線 | 東金線に乗り換えて大網まで |
大網~安房鴨川 | 外房線 | 大網から外房線で一気に安房鴨川まで進む |
安房鴨川~蘇我 | 内房線 | 今度は内房線に乗り換えて房総半島を一周する |
蘇我~東京 | 京葉線 | 蘇我からは京葉線で終点東京まで |
東京~錦糸町 | 総武快速線 | 京葉地下ホームから総武地下ホームまで歩いて快速 |
錦糸町~秋葉原 | 総武緩行線 | すぐに下りて各駅停車で秋葉原へ |
秋葉原~神田 | 山手線 | 再びすぐに下りて山手線で少し戻り神田へ |
神田~新宿 | 中央線 | 神田から中央線快速列車で新宿へ |
新宿~日暮里 | 山手線 | 新宿から山手線でぐるっと日暮里へ |
日暮里~馬橋 | 常磐線 | 日暮里から最後に常磐線へ/ 日暮里からの常磐線は馬橋に停まらないので、 松戸で各駅停車に乗り換え |
このような壮大なルートになります。総営業キロは1035.4km。これを150円でまわります。きっぷは自動改札機でははじかれるでしょうから、駅の係員さんに「大回り乗車です」と言ってお渡しして改札をでます。
ポイントとしては、終夜運転の列車に乗車するのは千葉~成田間の成田山新勝寺参詣客向けの列車であること、そのため成田駅で比較的長い時間列車を待つ必要があることが挙げられます。成田から先も銚子への初日の出客向けの臨時列車が終夜運転されていますが、それらの列車に乗ると松岸駅を通過してしまい、「同じ駅を2回通らない」というルールを破ってしまいますので、乗れません。
「年越し大回り乗車」が可能な時刻の例
実際に年越し大回り乗車をするにあたって時刻を調べてみました。計画するにあたっては、昼食、夕食の時間を勘案してスケジュールを組む必要があるほか、改札内に飲食店や売店などがある駅で食事ができるよう事前に調べておくに越したことはありません。なお、実際に挑戦される際はもう一度ご自身で最新の時刻表や運行情報などをお調べの上お出かけください。当サイトでは一切の責任を負いかねます。
まずはスタート地点の常磐線北小金駅に向かいましょう。
計画に当たり、食事の時間を勘案してスケジュールを組むことも大切です。また、長時間の待機をどこで迎えるかも考えておきましょう。大きな駅であれば暖かい待合スペースがあるでしょう。※実際に挑戦する際はご自身で最新の時刻表や運行情報などをお調べの上お出かけください。当サイトでは一切の責任を負いかねます。
実際に旅程を組んでみました。北小金発の時刻は6:13とします。北小金駅6:13発なら、首都圏の割と広い範囲(八王子、横浜、大宮、千葉等)から始発で行ける時間です。遠い人は松戸や柏などに前泊しましょう。
北小金6:13—-柏6:19 常磐線各駅停車我孫子行き
柏6:32—-友部7:43 常磐線快速水戸行き
友部7:53—-小山9:07 水戸線小山行き
ここで少し時間があるので改札内店舗で朝食を買うのもいいかもしれません。NewDaysにBECK’S COFFEE、LITTLE MARMAIDと便利な店舗が揃っています。
小山9:28—-高崎11:20 両毛線高崎行き
高崎11:52—-大宮13:12 高崎線小田原行き 1時間20分乗るのでグリーン車を利用するとよいでしょう。
大宮でお昼休憩。たくさんある改札内店舗を利用。
大宮14:11—-川越14:34 川越線川越行き
川越14:37—-八王子15:47 川越線・八高線八王子行き
八王子16:00—-橋本16:12 横浜線東神奈川行き
橋本16:23—-茅ヶ崎17:18 相模線茅ヶ崎行き
茅ヶ崎17:22—-大船17:33 湘南新宿ライン快速高崎行き
大船17:44—-鶴見18:27 根岸線・京浜東北線南浦和行き
鶴見18:45—-浜川崎18:58 鶴見線浜川崎行き
浜川崎での乗り換えは独特で、一度改札を出る形になりますが、問題ありません。
浜川崎19:13—-尻手19:21 南部支線尻手行き
尻手19:27—-川崎19:29 南武線川崎行き
川崎19:40—-品川19:48 東海道線(上野東京ライン)籠原行き
品川の改札内店舗で夕食にします。明日の朝食も買うとよいでしょう。
品川20:47—-武蔵小杉20:57 横須賀線逗子行き
武蔵小杉21:18—-立川22:03 南武線立川行き
立川22:04—-西国分寺22:09 中央線快速東京行き
西国分寺22:24—-武蔵浦和22:49 武蔵野線南船橋行き
武蔵浦和23:11—-赤羽23:26 埼京線新宿行き
赤羽23:36—-南浦和23:48 京浜東北線南浦和行き
南浦和23:53—-西船橋0:37 武蔵野線新習志野行き
西船橋駅で1時間半ほど待機します。西船橋駅では武蔵野線のホームは閉められるかもしれません。総武線ホーム(各駅停車、快速とも終夜運転)で待ちましょう。
西船橋2:23—千葉2:46 総武線各駅停車千葉行き(終夜運転の臨時列車)
千葉駅で今度は30分弱待機します。次の成田線快速は9番線から出発です。
千葉3:15—-成田3:45 成田線快速成田行き(終夜運転の臨時列車)
千葉2:54発の特急「犬吠初日の出1号」または千葉3:06発の特急「犬吠初日の出3号」も利用可能です。どちらも全車指定席です。
深夜の成田駅で1時間半ほど待機します。
成田5:21—-松岸6:39 成田線銚子行き
成田線の始発で松岸まで。銚子まで行ってしまうと大回り乗車が成立しません。
松岸6:53—-成東7:51 総武本線千葉行き
成東8:04—-大網8:22 東金線千葉行き
大網8:44—-上総一ノ宮9:05 外房線上総一ノ宮行き
上総一ノ宮9:23—-安房鴨川10:25 外房線安房鴨川行き
安房鴨川10:59—-君津12:46 内房線木更津行き
君津12:50—-蘇我13:30 内房線快速久里浜行き
蘇我駅改札内にNewDaysやパン屋さんがあるのでお昼ごはんにしましょう。元日は閉店しているか、営業時間が変更になっているかもしれないので注意してください。
蘇我14:05—-東京14:51 京葉線快速東京行き
京葉線地下ホームから次の総武線地下ホームへはかなり離れていて、乗り換えに時間がかかります。慣れない人は注意が必要です。
東京15:15—-錦糸町15:24 総武線快速成田空港行き
錦糸町15:31—-秋葉原15:38 中央・総武線各駅停車中野行き
秋葉原15:43—-神田15:44 山手線東京品川方面行き
神田15:48—-新宿16:00 中央線快速高尾行き
新宿16:08—-日暮里16:29 山手線池袋上野方面行き
日暮里16:36—-松戸16:53 常磐線土浦行き
松戸17:00—-馬橋17:05 常磐線各駅停車我孫子行き
馬橋に翌日の17:05に着きます。つまりもっとゆっくり行っても大丈夫ですが、疲れがたまっていて早く帰宅したいかもしれません。東京駅などの改札内店舗が充実した駅のカフェなどで休憩してもいいですね。
12月31日の北小金駅出発から1月1日の馬橋駅到着まで、乗車する列車の本数は38本、総移動時間は34時間45分です。
実際に行うには体力と精神力が必要なこの年越し大回り乗車ですが、できるのは一年に一度だけ。年越しの思い出にぜひやってみてはいかがでしょうか。
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