かつて明治時代から昭和の戦時中にかけて、成田には路面電車が走っていました。
その名も成宗電気軌道(せいそうと読む、のちに成田電気軌道、成田鉄道)といい、宗吾霊堂で有名な宗吾から京成本線に並走するように進み、京成成田駅前を経て、成田山新勝寺まで向かう路線でした。明治43年に開業。現在高速バスや路線バスなどを運行している千葉交通の前身です。
停留所は9つで、成田山門前(のちに不動尊)-幼稚園下-京成電車前-本社前-論田-新田-大袋-宗吾の本線と、本社前-省線駅前(現在のJR成田駅のこと)の連絡線がありました。全線が複線で、のちに単線になりました。時代に依りますが、だいたい5~15分間隔で運行され、全線を17分で走ったそうです。のちに京成の傘下に入り、戦時中に不要不急路線として廃止され、バス会社となって現在に至ります。
その廃線跡のうち、京成成田駅前から成田山新勝寺(当時は不動尊停留所)までの廃線跡は「電車道」として整備され、二つあるトンネルはそのまま残っています。
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そんなかつての成田の鉄道を偲ぶべく、廃線跡を歩いてきました。
まずは京成線の京成成田駅にやってきました。参道口に出ます。成田山新勝寺へは成田の駅前から表参道を通って参詣するのが一般的です。電車はその参道を迂回するように走っていました。
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駅前のロータリーに成宗電気軌道の「京成電車前停留所」がありました。現在では「京成成田駅」という名前のバスのりばになっています。千葉交通のバスがひっきりなしにやってきます。
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もちろん当時とは違いますが、なんとなく電停の雰囲気を残しています。
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バス乗り場の奥には、千葉交通の「会社創立百周年記念碑」が建てられています。
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千葉交通とJRバスの路線バスが頻繁に発着しています。千葉交通はこのような青系のカラーリング。成田営業所には新車が入ります。
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では廃線跡を歩いてみましょう。まずは電車道を成田山新勝寺の方に進んでみます。いかにもな道。
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緩やかな下り坂を進みます。
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京成線の高架を右に見て進みます。当然京成線の成田より先は当時は存在しません。
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市役所通りと交差し、築堤に入ります。春には桜並木の美しいところです。
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築堤を下から見上げるとこんな感じ。「成宗電気軌道築堤」と呼ばれます。
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まっすぐでなだらかな道。奥にトンネルが見えます。
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右手には成田空港に向けて大きくカーブする京成線の高架が見えます。京成本線や東成田線の列車のほかに、回送で走るスカイライナーの姿も見えました。
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「成宗電車第二トンネル」に着きました。当時の姿をとどめています。イギリス積のレンガ造りのアーチ構造。
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2014年に土木遺産に認定され、プレートが建てられていました。
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成宗電気軌道の車両はデハ1形。15両新造されました。9両が横浜に、5車両が函館に渡り、そのうち1両が改良工事を経て函館市電で「箱館ハイカラ號」として現在でも活躍しています。
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第二トンネルは成田山側から見たほうが原型に近い見た目をしています。レンガ造りが美しいですね。
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次の成宗電車第一トンネルとの間に「幼稚園下」という電停がありました。現在は「東町入口」という千葉交通のバス停があります。
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その「幼稚園下」の幼稚園こと成田幼稚園ですが、いまでも存在します。
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続いて「成宗電車第一トンネル」に入ります。こちらも大変綺麗な状態で残っています。
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碑が建てられていました。
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第一トンネルを出ると緩やかに右にカーブしながら進みます。やや下り勾配のようです。
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成田山新勝寺の土産物屋が並ぶあたりに着きました。終点は「成田山門前」という電停で、具体的な位置はわかりませんが、旧成田街道と接しています。
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現在でも千葉交通のバス停の名前は鉄道時代を受け継いで「成田山門前」です。JRの方は「成田山前」。この比較的道幅の広い位置に電停があったのでしょうか。
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成田山を見学後、再び徒歩で戻ります。京成成田駅から成田山までは、電車道を通るとだいたい1.1キロほどでした。
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途中の桜並木の築堤のところでおもしろいものを見つけました。栗山公園という公園に保存されているD51 609号機関車です。保存状態が良好。真上に京成線が通っています。
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京成成田駅前に戻ってきました。ここから今度は宗吾方面に進みます。こちらは遺構はほとんど残っていませんが、かつての路線を受け継いだ千葉交通の「宗吾線」というバス路線が1日3往復だけ走っているので乗ってみることに。
千葉交通「宗吾線」はJR成田駅から京成成田駅、日赤病院、公津の杜駅を経由して相互霊堂まで結ぶ路線です。始発の成田駅東口から乗車します。12:00の便です。
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バスがやってきました。前乗り、前降り、後払いという形式です。後ろのドアは使いません。
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座席が埋まるほどの乗車率で出発です。京成成田駅前は例のロータリーののりばではなく、旧成田街道沿いなので注意してください。
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成宗電気軌道は旧成田街道を走っていました。JR線と京成線の間を通る形です。一本松通りとも呼ばれています。同じ道をバスで進みます。
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千葉交通の「不動ヶ岡」バス停があるあたりにはかつて「論田」停留所がありました。具体的な位置はわかりません。
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成宗電気軌道は旧成田街道とわかれ、京成線に沿うようにしてJR成田線の線路をくぐります。バスはそのまま旧成田街道を進むため、しばらく経路がずれます。
バスは日赤成田病院で成宗電気軌道と合流します。中央通りの交差点手前の「新田」停留所があったあたりに着きます。現在では「飯田新田」というバス停が置かれています。こうしてみると停留所がバス停に受け継がれていることがわかります。
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次の「大袋」バス停で下車しました。この辺りに第3のトンネルがあったようですが、わかりませんでした。人が通るためのトンネルで、電車が上を渡っていたようです。
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成宗電気軌道もこのあたりに「大袋」停留所を設けていました。
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大袋停留所を出ると宗吾街道と交差して南側に渡り、宗吾街道とわかれて現在は私有地となっている敷地に入っていきます。これが廃線跡のようです。
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大袋から終点の宗吾まで歩いてみました。宗吾街道経由で10分ほどで宗吾霊堂に着きます。
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終点の「宗吾」停留所のあったあたりまできました。宗吾霊堂の手前にバス専用レーンが広く取られていました。ここがかつての停留所だったのかはわかりません。多分宗吾街道の南側にあったのではないかと思います。
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ただ、ここにも千葉交通の石碑が建てられており、成宗電気軌道について詳しく書かれています。電車のイラストも彫られていますね。
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現在は「宗吾霊堂」というバス停があり、千葉交通「宗吾線」の終点となっています。ほかに成田市のコミュニティバスも出ているようです。奥の川魚料理屋さんで雑魚の佃煮を買いました。
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宗吾霊堂に参拝します。
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次のバスは3時間後になるため成田駅方面には戻らず、徒歩で京成線の宗吾参道駅に向かいました。歩いて15分弱。宗吾参道駅は酒々井町になります。
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かつて成田の街を東西に走った路面電車の面影を感じながら楽しく旅することができました。実際に歩いてみるといろんな発見があるものです。成田山新勝寺への観光に組み合わせたり、成田空港でのトランジットの待ち時間などにも使えるちょっとした旅としていかがでしょうか。
歴史をたどる旅となりました。
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